ネタバレを含みますので未視聴の方はご注意ください。
作品情報
予告動画
キャスト
シエナ・ケリー
ロージー・マキューアン
偶然の再会
食品会社で働くマリアは、新しいフレーバーの開発に取り組んでいた。そんなある日、試食モニターとしてやってきたのは、高校時代の同級生ヴェリティ。かつてコンピューターオタクで変人扱いされ、教師との噂まで立てられていた彼女だ。マリアの開発したフレーバーを絶賛するヴェリティ。その影響で、他のモニターたちの反応まで変わっていく。
ヴェリティは、研究開発部に入りたいと希望するが、マリアは「募集していないはず」と困惑。しかし実際に確認してみると、いつの間にかアシスタント募集がかかっており、あっという間にヴェリティはその職を得てしまう。
崩れていく現実
職場で少しずつ信頼を得ていくヴェリティに、マリアは微かな不安を抱く。ある日、ファストフード店の名称を巡って同僚と口論になり、マリアは自分の記憶に自信を持っていたが、周囲は違う名前を支持。家に帰ると、かつてその店の店員だった彼氏の帽子までもが“正しい”名称に変わっていた。マリアの常識が、少しずつ塗り替えられていく。
さらに、重要なミスの責任までマリアに押し付けられ、職場の信頼を失っていく。信じられるはずのメールの文面さえも書き換えられており、もはや何が現実かもわからない。
ペンダント
マリアは気づく。おかしな出来事の裏には、ヴェリティがいつも身につけているペンダントが関係していると。ヴェリティの家に乗り込んだマリアは、そのペンダントが“現実を書き換える力”を持っていることを知る。
ヴェリティは、過去のイジメの復讐のためにこの力を使っていた。かつて教師との噂を流したのはマリアだったのだ。心の傷を癒すため、ヴェリティは自らを“神”のようにし、世界を書き換える。
ヴェリエィの自宅に乗り込んだマリアは揉み合いの末、銃で彼女を撃ち、その死を“自殺”と改変。ペンダントを手に入れたマリアは、自らが世界の“女帝”となるのだった。
感想
じわじわ不安になっていく
このエピソードは、何もかもが明確にホラーではないのに、じわじわと不安を煽られていくのが本当に上手。最初は気にも留めなかったペンダントの存在が、物語の中盤には「全部これのせいかも」と思わせてくる構成が見事。
見返してみると、確かに何かが起こる時は必ずあのペンダントを触ってる…。
ヴェリティの終始口元にうっすら笑みを浮かべたような、見ていてぞくりとするような表情も目が離せませんでした。特にアーモンドミルクをゴクゴク飲み干すシーンのあの狂気じみた表情が、脳裏に焼き付いて離れません。
わかっているのにラストが気になる
ヴェリティの異常さや、現実が少しずつ書き換えられていることに気づきはじめた中盤あたりから、「絶対に何か仕掛けがある」と分かっていながらも、どうしても先が気になって目が離せませんでした。
ラストでマリアが“女帝”として君臨する世界を書き換えて終わるあの展開も、「結局同じことを繰り返すのか?」という皮肉と虚無感に満ちていて、まさにブラックミラーらしいオチ。”後味が悪い”と言うほどではないんだけど、見終えたあともじわじわ効いてくるラストでした。
良作揃いのシーズン7の中でも、個人的にはこのエピソードが1番印象に残っています。
“ベット・ノワール”の意味
今作のタイトルである「ベット・ノワール(Bête Noire)」は、フランス語で「目の敵にする」という意味。正にこのエピソードにぴったりなワードです。
視聴者の目から見れば、ヴェリティのやり口は異常で恐ろしいものでありながら、彼女自身にとっては“過去のトラウマを清算するための戦い”でもあります。つまり、彼女にとってのベット・ノワールはマリアそのものであり、逆にマリアにとってもヴェリティは日常を壊す存在=忌まわしい象徴となっていく。
たった一言のタイトルに、登場人物たちの歪んだ関係性と、最終的にどちらがその言葉にふさわしい存在なのか、という皮肉まで詰め込まれていて、思わず唸ってしまいました。