待ちに待ったブラック・ミラーのシーズン6がついに公開。期待高まる1話目は私たちもよく読み飛ばす”あれ”の怖さがわかるお話です。
以下、ネタバレ大いに含みますのでご注意ください。
奇妙なドラマ
大手企業の中間管理職として働くジョーン。会社では上司と部下の間で板挟み、私生活では婚約者がいるものの元彼が忘れられない、そんなごく一般的な女性だ。
ある日元彼から急に連絡があり、ディナーの誘いに乗ったジョーンは成り行きでキスをしてしまう。
帰宅したジョーンが婚約者クリシュと寛ぎながら動画配信サービス「ストリームベリー」でドラマを探していると「ジョーンはひどい人」という作品が目に留まる。奇妙なことに主人公の名前も髪型もジョーンと全く同じで、主演は大物女優のサルマ・ハエック。
戸惑いつつも再生すると、なんとジョーンが過ごした今日一日がドラマとして再現されているではないか。動揺したジョーンは動画を止めようとするが、クリシュは今夜ジョーンが元彼と会ってキスをしたことを知り荷物をまとめて出ていってしまうのだった。
更にドラマの存在はその日中にジョーンだけでなく、職場の仲間や元彼、母親にまで知れ渡ってしまう。
翌日出社したジョーンは「ドラマを通して会社の守秘義務を破った」として会社をクビに。到底納得できないジョーンは法律事務所へ向かうが、弁護士からは「ストリームベリー契約時にジョーン自身が利用規約に同意しているため法的に問題なし」と驚くべきことを告げられる。
ならば許可なく自分を演じた女優のサルマ・ハエックを訴えたいと懇願するが、なんとドラマはCGで作られており、サルマ本人は演じていないと告げられお手上げ状態に。ヤケになり元彼と一夜を共にしようとするジョーンだったが、自分まで巻き添えを喰らいたくないと振られてしまう始末。
翌日ジョーンはある思惑のため、大量のバーガーを食べて下剤を飲み、 イカれた女の格好をして人の結婚式に乱入しヴァージョンロードのど真ん中で排便するというとんでもない行動に出る…。
結託
自身をとんでもない映像に使われ大激怒した女優サルマ・ハエックは弁護士の元へ。しかしサルマもまた利用規約への同意を理由に違法性がないと言われてしまうのだった。
発狂寸前のサルマは自分を貶めた本人ジョーンの元を訪れる。大声で各々の主張をまくし立てた後、お互い憎むべきはストリームベリー社だという事実が発覚し徐々に意気投合。
2人はストリームベリー社に侵入し、システムそのものを落とすため結託するのだった。
サルマが注意を引く間にジョーンが侵入し、2人は難なくストリームベリー社の中へ。社内ではCEOがインタビューを受けている最中であり、ジョーンは”平凡だから”という理由で自分が試作品としてこのドラマのモデルに選ばれたこと、そして今後は利用者全員のドラマを作成予定だという事実を知る。
憎きシステムの元へ無事たどり着いたジョーンだったが、更なる衝撃が待ち構えていた。なんと自分はオリジナルのジョーンではなくまた別の女優が演じたジョーンであり、今いる世界は仮想世界だという…。つまりシステムを壊せばこの世界もろとも消えてしまうということだ。
ストリームベリー社のCEOに説得されるジョーンだったが、オリジナルのジョーンが同じ道を辿ったのだから自分もここにいるはず、と躊躇いなくシステムを破壊する。
平穏を取り戻したオリジナルのジョーン。その後は夢だったコーヒーショップを開き、新しい恋人や友人もできて、自分で決めた人生を生きているのだった。
感想
前シーズンからかなり間が空いたのでドキドキでしたが、1話目からちゃんとブラック・ミラーで安心しました。
作中で出てくる”ストリームベリー”とは無論Netflixのことで、立ち上げ音もまるっきり同じ。途中「ブラック・ミラー バンダースナッチ」がチラチラ主張しててくすっときました。
「絶対ありえない」と言いきれない怖さ
ストーリーとしてはNetflixが利用者の1人の日常を勝手にCGドラマ化してしまう、ということなんだけど、これがまたリアルなのが怖いところ。
日常で何気なく会話したものが広告として出てくることって本当にあるし、最近AIで作る動画なんていうのも流行っていて、しかもこれがけっこうリアル。この作品みたいなことが可能になってしまう技術はすぐそこまで来てるということで…。
※現在進行形で行われているハリウッドのストの一因が「エキストラ俳優の容姿でAI作成し、たった1日分の対価で無限に使い回し」というトンデモ交渉だったそうで、リアルにこの作品だしタイムリーすぎてびっくりしました。
もう1つの怖い点と言えばやっぱり”利用規約“。作中でサルマがボロクソ言ってた通り、普通に考えてあんなものは読むわけないんだけど、「実は利用規約に書いてありました」って事本当にある。それにしても私生活を勝手にドラマ化されたり、CGとはいえ自分の顔で脱〇する映像なんて作られたらたまったものじゃないけど。
“ポジティブは受けず、ネガティブな方が興味関心を持たれる傾向”というのもまたリアルで。いや普通こんなのありえないんだけど「現実では絶対ありえない」なんて言いきれない怖さがありました。
しかし初見では「1話目にして攻めてるなー」くらいにしか思っていなかったのですが、全話鑑賞するとシーズン6の中ではこれが1番明るく希望あふれる作品だったことに気付かされます。。
ラスト解説
ラスト直前で自分がオリジナルではないことを知ったジョーン。文字にしてみると
オリジナル(最下層)のジョーン
↓
オリジナルジョーンを演じるアニー・マーフィー(今まで主人公だったジョーン)
↓
アニー・マーフィーのジョーンを演じるサルマ・ハエック
↓
サルマ・ハエックのジョーンを演じるケイト・ブンシェット
というマトリョーシカのような構造。 話の中ではケイト・ブランシェットまでしか出てこなかったけど、これはどこまで続くのか、果てはあるのか気になるところ。
システムを壊したことで今まで主人公だったジョーンが消えてオリジナルのジョーンの姿になり、サルマだった人が今まで見ていた主人公ジョーンになっていた時は複雑で混乱しました。
酷い災難に見舞われたジョーンでしたが、ラストは人に流される人生をやめ、自分で決断した人生を生きられるようになっていたのが良かった。ジョーンがオープンしたコーヒーショップにアニーがやってきたのも。
「利用規約はしっかり読もう」と心に刻ませてくれた良作でした。
