ネタバレを含みますので未視聴の方はご注意ください。
作品情報
予告動画
キャスト
ポール・ジアマッティ
パッツィ・フェラン
ブラックミラー シーズン7 5話 “ユーロジー”のあらすじ
かつての恋人
孤独な生活を送るフィリップの元に、「ユーロジー社」という没入型の追悼サービス会社から連絡が届く。亡くなったのはかつての恋人・キャロル。彼女の追悼式のため、フィリップの記憶から“思い出”を提供してほしいと頼まれる。
自宅にドローンで送られてきたキットには、ガイドディスクが入っていた。それを頭部に装着すると、AIによる記憶探索ガイドが始まる。
記憶を巡る旅
フィリップはキャロルの事を思い出すため、過去の写真を使って記憶を呼び起こそうとする。ガイドの誘導に従うと、フィリップは“写真の中の世界”に没入していく。
一枚目の写真では、仲間内で集まっている小屋の風景が広がるが、キャロルの顔は背を向けていて確認できない。
続いてパーティーの写真、キャロルがチェロを弾いている写真など、複数の写真に没入し、徐々に記憶を取り戻していくも、なぜか彼女の顔だけがいつも見えないのだった。
忘れたい記憶
写真の中の世界でフィリップはかつての思い出を少しずつ辿っていく。キャロルと初めて一夜を共にした夜、初旅行、バンド活動――。だが次第に、記憶には苦い後悔が滲み始める。
遠距離恋愛になった後、フィリップは浮気をし、それを知ったキャロルと大喧嘩をしたこと。プロポーズのために高級レストランを予約したものの、キャロルは無言で立ち去ってしまったこと。そしてその記憶だけが鮮明すぎて、フィリップは彼女の顔を思い出さないよう、記憶の奥底へ沈めてしまったのだ。
ガイドの正体
記憶を辿る中で、ガイドは突然態度を変え、フィリップに詰め寄る。彼女がプロポーズの場で無言だった理由、それは“妊娠していたから”だったと明かす。
そしてガイドの正体は、キャロルの娘・ケリー。だがそれは本物のケリーではなく、ユーロジー社が作り出した“複製体”だった。
ケリーは、父親はフィリップではないと告げるが、キャロルがフィリップに宛てて書いた手紙の存在も語る。
写真の中の記憶で、フィリップはホテルの部屋に散らばる物の中に、キャロルの手紙が落ちているのを見つける。そして現実に戻ったフィリップは、自宅の中からその手紙を探し出し、ようやく読むことになる。
手紙には、 本当はフィリップと一緒にいたいというキャロルの気持ち、そして「まだ話す気があるのなら、明日この場所で待っている」という約束が綴られていたのだった。
記憶の扉
フィリップは机の中から、キャロルがかつて自作したチェロのテープを発見し、再生する。すると彼の中でキャロルの笑顔がようやく鮮明に蘇る。その表情を見つめながら、フィリップは静かに涙を流すのだった。
感想
切なくもあたたかな“すれ違いの物語”
ブラックミラーといえば皮肉やブラックユーモア、後味の悪い展開が多いですが、本作「ユーロジー」は異色ともいえる感動系の作品でした。たまにこういう作品があるからブラック・ミラーはやめられないんだよね…。
かつて愛したはずの彼女を、「もう二度と思い出したくない」と思うほど、フィリップの心には深い傷が残っていました。長いあいだ、怒りと悔しさに記憶を閉ざしてきたフィリップ。
しかし奥底には、たしかにキャロルを愛し、そして愛されていた記憶が眠っていたでした。ただのノスタルジーではなく、そこにあるのは“見えなかった真実との対面”でした。
“顔の見えない彼女”が見えるとき
このエピソードの見事な演出のひとつは、「顔が見えないキャロル」という象徴的な演出。
愛していた相手の顔すら思い出せないのは、ただの忘却ではなく、きっとフィリップの心が拒否していたのかなと思います。
けれど最後のテープの再生シーン――そこでようやく彼女の姿がはっきりと見えます。それはフィリップが過去と向き合い、憎しみや後悔を乗り越えたからこそ、ようやく辿り着けた“再会”だったのでしょうね。
ラストの柔らかく微笑むキャロルと、彼女を静かに見つめ涙するフィリップの姿。静かながら、深く心を打つラストでした。
未来の追悼の形
今作の”没入型追悼サービス”は、亡くなった人との思い出を提供し、遺族に共有するというもの。
ブラックミラーは毎度ながら、本当に未来にこういうのできるんじゃないかな、と思ってしまうような設定を考えるのが上手いです。
しかもフィリップにとっては、ただ懐かしむための記録ではなく、“記憶の再構築”という形で、遺された人が過去を見つめ直すきっかけにもなっているのが印象的でした。
このサービスは、時には忘れたいことや目を背けてきた感情まで呼び起こします。そこにあるのは単なる癒しではなく、「故人と向き合う勇気」を与える装置のようにも感じました。