1話完結のSFオムニバス作品「ブラックミラー」。今作はシーズン2ラストの物語です。
以下、ネタバレになりますのでご注意ください。
ブラック・ミラー 2-4【ホワイト・クリスマス】
アドバイザー
人里離れた辺境の地で共に生活する、マシューとジョー。普段は全くといっていいほど会話のない2人だったが、その日はクリスマスだということを理由に、共に食事をしながら互いの身の上話を始める。
この世界には”Zアイ“と呼ばれる機能が存在する。
その中の機能のひとつ、今自分の目で見ているものを他人と共有できる”アイリンク”という機能を使い、マシューは恋愛アドバイザーとして、他人の恋愛をサポートしていた。共有はマシューだけでなく、同じ境遇の複数の男性たちも加わり、仲間の恋愛事情に野次を飛ばしながら楽しんでいた。
その日はクリスマスで、マシューは自身がサポートするハリーという男性を、知らない会社のクリスマスパーティーに潜入させた。この時期何よりも盛り上がるクリスマスパーティーで、着飾ったカワイイ女の子をひっかけようという作戦だ。
早速ハリーはミステリアスな黒髪の美女を発見し、惹きつけられる。普段はぱっとしないハリーだが、マシューの的確なアドバイスとサポートにより、見事彼女の隣をキープ。
騒がしいパーティーが苦手で、「去年は薬で乗り切ったわ」と冗談めかして言う彼女。なかなかの変わり者のようだった。
この会社で働いて3年になるという彼女だったが、辞めることを考えているという。ハリーはマシューのアドバイス通り彼女に理解を示し、「プールに飛び込むようなもんさ」と転職のアドバイスをする。
効き目あり、一気に表情が明るくなった彼女は、ハリーを自宅へ招待する。ベッドに誘われ、彼女に馬乗りになられて酒を飲まされるハリー。
興奮し、盛り上がるメンバー達。だが、激しく咳き込むハリーの様子から事態は急変する。
「頭の中で声がするの」
「前は薬を飲んでいたけど声は止まないから辞めたわ」
「今夜これを飲んで終わらせようと思ったけど決心がつかなかった」
「そこへあなたが現れたの」
マシューはハリーに逃げろと支持するが、既に手遅れだった。彼女が辞めたいといっていたのは仕事ではなく人生そのもので、ハリーは彼女の心中の道連れとなってしまった。
この事件がきっかけで妻に不信感を持たれたマシューは、妻に”ブロック“され、離婚を余儀なくされてしまう。ブロックとはお互いの姿が見えなくなり、会話も一切できなくなるというZアイの厄介な機能だ。
マシューはそんな辛い過去から逃げるため、ここへやってきたという。
マシューの本業
しかし恋愛アドバイザーはマシューにとっては趣味の一環で、本業は最先端の技術に纏わる仕事をしていた。その仕事とは、依頼を受けた人間の頭脳のコピーを作ること。
依頼人の頭の中に1週間ほど空の「Cookie」を埋め込んでコピーを作ったあと、タマゴ型のプロセッサの中に取り出したCookieを入れ替え、戸惑うコピーにマシューが説明する。そしてプロセッサの中の時間を操りながら、コピーが言うことを聞くようになるまで調教するというところまでがマシューの仕事だ。
マシューに調教されたコピーは、「本物の自分が快適な生活を送れるようサポートをする」という仕事を任される。例えば、朝食の準備や部屋の温度調整など。自分の好みは自分が一番よく知ってということだ。
「まるで奴隷じゃないか」とコピーの同情するジョー。ひと通り自分の身の上話を話し終えたマシューは、今度はジョーに話をするよう促す。
ジョーの過去
ジョーにはベスと言う名の恋人がいた。ベスは美しく、ジョーはそんなベスに夢中で、2人の関係は良好だった。
ある日、ジョーはふいにゴミ箱の中からベスが使用した妊娠検査薬を発見してしまう。検査薬は陽性を示していた。
ジョーは大喜びするが、妊娠を望んでいなかったベスは「子供を下ろす」と言う。説得からだんだんと攻め口調に変わってきたジョーに我慢ならなくなったベスは、Zアイの機能を使ってジョーをブロックする。
感情的になりベスに怒鳴り散らすジョー。翌朝、ジョーはベスに謝ろうと話しかけるが、ベスはブロックを解除することなく、そのまま家を出て行ってしまう。
ブロックのせいで電話やメールもできないジョーは、一週間後ベスの職場へ行って待ち伏せする。出てきたベスの友人に話を聞くと、ベスは仕事を辞めたと告げられる。
ついにどうすることもできなくなったジョーだが、ある日街で偶然ベスを見かける。ベスのお腹は大きかった。
夢中でベスの元に駆け寄り、ブロックを解除するよう必死にジェスチャーをする。しかしベスは応えることなくジョーは近くの人に通報され、ベスへの接近禁止命令を出されてしまう。
それからジョーは何度もベスに手紙を書いたが、返事がくることはなかった。しかし、そんなジョーにも唯一救いが残されていた。
クリスマスの日、ベスは毎年必ず実家で過ごす。ベスの実家の場所を知っているジョーは、イヴの前日にベスの実家へと向かった。
ベスは無事に子供を出産していた。ベスの父親が子供を抱えていたが、ブロックされるとその子供にまで影響するため、子供の姿を見ることはできない。
それでもジョーは諦めず、影だけでもいいからと毎年クリスマスの日はベスの実家へ通った。何度も見届けるうち、子供の性別が女の子だとわかった。
それから数ヶ月後、何気なくテレビを見ていたジョーは、ベスが交通事故に巻き込まれて亡くなったことをニュースで知る。彼女が亡くなったことでブロックは解除され、ジョーはテレビの画面越しに、久しぶりにベスの姿を見た。
ブロックが解除されたということは、すなわち子供の姿も見えると言うことだ。その年のクリスマス、ジョーはプレゼントにスノードームを買い、娘へ会いに行った。
告白
ジョーが実家に着くと、娘は庭で雪だるまを作っていた。意を決してジョーが声をかけ、娘が振り向く。
振り向いた娘は、アジア系の顔をしていた。
動揺の中で、ジョーは必死に思い返す。ジョーとベスの共通の友人だったアジア系の男。
ベスは彼と関係を持っていたのだ。何年も追い求めてきた愛しい娘は、ジョーの子供ではなかった。
ジョーは魂を抜かれたように、無心でベスの実家の中へと進む。ベスの父親の姿を見つけると、「娘はどこだ。僕の娘に会いたい」と繰り返し呟いた。
「お前に娘なんかいない」
そう返された瞬間、ジョーは手にしていたスノードームでベスの父親の頭を殴ってしまう。父親はそのまま倒れ込み、そのうち動かなくなった。
その後、ジョーは車で見知らぬ街へ行き着き、まるで浮浪者のような生活を送っていたところを警察に連行された。
「警察には言えなかった」
涙を流しながらマシューに語るジョー。「女の子はどうした?」とマシューが聞く。
警察から聞いた話だが…とジョーが続ける。その日、その子はただ家でじっとしていた。次の日、動かなくなった祖父にプレゼントを渡し、吹雪の中助けを呼びに行ったと。
「認めるのか?ジョー」
マシューが問う。「認めるよ」とジョーは応え、嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。
次の瞬間。
「ほら出来た。さあ出るぞ。悪いな、ジョー」
突然マシューの様子が変わり、一瞬でジョーの元からマシューの姿が消えた。
真相
現実世界である警察署の中へと戻ってきたマシュー。
恋愛アドバイザーの一件で罪に問われていたマシューだったが、ある条件を満たせば免責を受けられると警察に協力していた。その条件こそ、ジョーの罪の自白をとること。
2日間黙秘していたジョーに、マシューは得意のCookieを使い、自分とマシューを仮想世界の中へ閉じ込めた。さらに時間を調整し、実際70分程度だったところを、ジョーには「もう5年もここにいる」と思い込ませた。
協力の甲斐あり、無事免責を受けられることになったマシュー。しかし、「罪人としてみんなに登録される」という代償からは逃れられなかった。
釈放され、クリスマスムードの街へ出るマシュー。しかしすべての人にブロックされているマシューは、誰一人の姿も見ることができない。
ひとり仮想空間に取り残されたジョーは、警察の人間によって陽気なクリスマスソングを流され、さらに1分を1000年に感じるよう時間を調整され、頭を抱えるシーンでこの物語は終了する。
感想
「マシューの趣味」と「マシューの本業」、さらに「ジョーの罪」という3つのショートストーリーから成る、正にシーズン2のラストを飾るに相応しい今作。相当な後味の悪さであるにも関わらず、評価が高いのも納得です。
何の前置きもなく、どこかよそよそしい2人の男の共同生活から、突然この物語はスタートする。
最初に語られるのはマシューの趣味兼副業である恋愛アドバイザーの話。この話の要となる”Zアイ”は小さなリモコンを操作して扱うのだけど、それがシーズン1の「人生の軌跡のすべて」に出てきた、あの自在に巻き戻しできるリモコンにそっくり。もしかしたら同じ機能?
あちらの作品では記憶の再生しか機能が無いように見えたけど、今作の方は写真を撮ったり、目に映るものの共有やブロック機能などもあるので、今作は「人生の軌跡のすべて」の更に進化した未来なのかもね。
続いてマシューの本業の話では、Cookieという新しい機能が登場する。自分のコピーを作って生活を管理させるというその機能をふーん、面白いなーと思っていると、まさかのその機能がラストにも繋がってくる。
最後はジョーの犯した罪の話。ここでのメインとなるZアイのブロック機能は、素直にいいなあと思ってしまった。
この機能があれば、電車の中や街中で不快な人がいても目にしなくて済むと安直に考えてしまったのだけど、人との別れの場面ではこの作品同様かなり厄介なことになりそうだ。自分はまだ未練があってもブロックされたら最後、話をすることすらままならなくなってしまうのだから。
そしてジョーが娘の顔を見た時の衝撃といったら…。ジョーが衝撃のあまりふらつく描写と同様、こっちも目が回りそうだった。
娘が振り向く間の溜めで、見てるこっちはどんな顔してるんだろうと期待とほんの少しの恐怖を抱くわけだ。それを見事なまでにどん底へ突き落としてくれるのは、流石ブラックミラーと言うべきかな。
ラスト、マシューは”すべての人から拒絶される恐怖“に、ジョーは”時間を操作される恐怖“に陥れられ、実に救いようのない終わり方で物語は終了する。どっちも最悪だけど、自分ならまだ人からの拒絶の方がいいかな。こうなったら悟りを開いて自然と交流を試みようかと思う。
ここまで一切の救いというものがなかったブラックミラーですが、シーズン3からはハッピーエンド?と呼べる作品もちらほら登場してきます。次シーズンもどうぞご期待あれ。