1話完結のSFオムニバス作品「ブラックミラー」。シーズン2のスタートをきるのがこの「ずっと側にいて」というお話。
自分は全シーズン中、この作品で1番泣きました。大切な誰かを持つ人ならわかる、悲しさと苦しみにまみれた物語です。
以下、ネタバレになりますのでご注意ください。
ブラック・ミラー 2-1【ずっと側にいて】
アッシュとマーサ
同棲中のカップル、アッシュとマーサ。彼氏のアッシュはちょっぴりネット依存気味だが、関係は良好だった。
ある日、アッシュは借りた車を返しに行こうとマーサを誘うが、マーサは仕事があるからと断り、アッシュひとりで返しに行くことに。
黙々と仕事を進めるマーサだったが、夕方になってもアッシュは帰ってこない。心配になって車のレンタル先に電話すると、約束の時間を過ぎているのに車はまだ返却されていないという。
夜になっても戻らないアッシュ。不安なマーサは姉に電話をかけるが、電話中家の窓からパトカーの光が見える。
愛しいアッシュは、帰らぬ人となってしまった。
メッセージ
アッシュの葬式で、マーサは大切な人を亡くした経験のある友人、サラに話しかけられる。サラはマーサに、亡くなった人と話ができるというまだ開発途中のサービスを勧めるが、まだ心の整理もつかないマーサは「うるさい!」と怒鳴ってその場を離れる。
アッシュのいない家で孤独に耐え、生活するマーサ。ある夜メールチェックをすると、サラから「あなたをサービスに登録しておいた」というメールと、何故か亡くなったはずのアッシュの名前で「僕だよ」というメールが届いている。
マーサがサラに怒りの電話をかけると、「とにかくメッセージを送って」と返される。サラいわく、これは死んだ人の名前を登録すると、ソフトがその人のSNS上の発言を拾い、まるで本人のように返してくれるサービスだという。
翌日、仕事中に吐き気を覚えるマーサ。検査をすると、妊娠していることがわかる。
すぐに姉に電話をかけるが、子供を抱えた姉はなかなか電話に出ない。孤独に耐えられなくなったマーサは、ついに画面上のアッシュに「あなたなの?」とメッセージを送ってしまう。
「僕はリンカーン大統領だよ」
返ってきたのはいかにも彼らしい返事。
マーサは涙を流しながらアッシュに妊娠したことを伝える。アッシュは喜び、「今君のそばにいたい」とメッセージが送られてくる。
「あなたの声が聴きたい」とマーサが送ると、アッシュからは「できるよ」と返事が。
マーサはアッシュに言われるがまま、アッシュの映る動画をソフトにアップロードする。しばらく経つと、マーサのスマホに電話がかかってきた。
メールの文章同様、声もしゃべり方もアッシュそのもの。しかしアッシュとしての記憶はないため、2人の思い出を共有することはできない。
検診のため病院にやって来たマーサ。赤ちゃんの心音を録音してアッシュに聞かせるマーサだったが、帰り道スマホを地面に落としてしまう。
急いで帰宅し、再起動を試みるマーサ。アッシュは無事で、データはクラウド上にあるから破損の心配はないと言う。
安心して涙ぐむマーサに、アッシュはこのサービスの次の段階のことを説明する。
アッシュ
翌日、マーサの家には大きな荷物が届く。箱を開けると、中には真空パックに入れられた人間の体そっくりのものが。
「風呂の浴槽に体と電解質を入れてそのまま待って」
アッシュの指示に従うマーサ。しばらく待ったがもう限界!とばかりに廊下へ飛び出してくると、なんと階段から裸のアッシュが降りてくるではないか。
始めは顔のないマネキンのようだったが、今では見た目もしゃべり方もアッシュそのものだった。
アッシュによると、食べる必要はないが食べるフリをすることはでき、体は画像を貼り付けてできているという。毛穴や指紋まで細かく映し出されているが、マーサが触るとすべすべだった。
マーサは体を得たアッシュと体を重ねることを試みる。胸元のほくろがないと指摘すると、アッシュは魔法のようにほくろを出現させた。
AIのアッシュはポルノ動画で学習しており、 元のアッシュとは比べられないくらい最高だ。
アッシュとのなんとも不思議な生活を送るマーサの元へ、マーサを心配した姉が訪れる。姉は家に男性がいることを感づき、マーサの前進を喜んだ。
姉が帰ると、「友達は何て?」とマーサに質問するアッシュ。同じ姿でありながら記憶を持ち合わせていないAIのアッシュに、マーサはだんだんと苛立ちを感じ始めてしまう。
屋根裏部屋
ついに我慢ならなくなったらマーサは、ある夜アッシュを家から追い出してしまう。翌朝マーサが外を見ると、アッシュはマーサの家の入口に突っ立っていた。
アッシュ曰く、起動地点である浴室から25メートル以上離れた場所へはひとりで行くことができないらしい。
追い詰められたマーサはアッシュを崖へ連れていき、飛び降りるようアッシュに命令する。
本気で飛び降りようとするアッシュに、「アッシュなら怖がって泣くはずだ」と感傷的になるマーサ。マーサの言葉を聞き本物そっくりに泣く演技をするアッシュに、マーサはずるいと言って泣きじゃくった。
数年後、大きくなった娘と仲良く暮らしているマーサ。その日は娘の誕生日で、マーサがケーキを切りわけていると「上にも持っていきたい」と娘が言い出す。
娘がケーキを持ってやってきたのは屋根裏部屋。娘は笑顔でそこにいる人物の元へ駆け寄る。
「アッシュ!」
嬉しそうにアッシュに語りかける娘の姿を横目に、複雑そうな表情のマーサを映してこの物語は終わりを迎える。
感想
「もしも愛する人を失ってしまったら」
というのは、誰もが一度は考えたことのある永遠のテーマでしょう。本作はそこにありえるようでありえない「SNSから作成するAI」の要素を取り入れたSF作品に仕上がっています。
自分は幼い頃に見た「A.I.」って映画を思い出しました。家族にかわいがられていたAIの主人公が、結局本物の子供に家族を取られ、捨てられてしまうというなんとも物悲しいストーリー。
こっちは亡くなった人のそっくりコピーっていう点でタチが悪い。自分に必要なくて見ているだけでも辛いっていう状況になったって、相手は大好きだった人そのものの見た目をしてる。
処分できるわけがないよね。
最後、アッシュは結局ほかの「処分ができないもの」たちと一緒に、ひっそりと屋根裏部屋に佇んでいる。まだ生まれてもいなかった子供がケーキを持って走り回れるくらい成長しても、この家にアッシュがいる限りマーサは前に進めない。
冒頭でも少し触れた通り、この「ずっと側にいて」という作品は、終始胸がずっと締め付けられるような、悲しいというより苦しさを感じた物語でした。ついに寂しさに負けたマーサがアッシュにメッセージを送り、返事がきて涙するシーンはこっちも涙が止まらなかった。
「もしも自分が同じ状況になったら」と考えてみた。もしも自分だったら、やはりきっとあのサービスに手を出してしまうはず。
その人はもういない、これはその人ではないと頭では理解していても、大切な人の姿かたちをして動いて喋る、そんな存在にきっと縋ってしまうに違いない。
ある日これは虚しいという気持ちが募ったとしても、きっと捨てることなんてできない。
その人として愛することはできず、かといってなくしてしまうこともできず、やっぱり家の片隅にひっそりと存在させておくんでしょうか。
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