1話完結のSFオムニバス作品「ブラックミラー」。シーズン3最初の物語は「評価」がテーマです。
以下、ネタバレになりますのでご注意ください。
ブラック・ミラー 3-1【ランク社会】
評価がすべて
すべてが数値により格付けされるランク社会。この世界の人々はみな顔の近くに自身の名前とランクが表示され、気の利いた会話やSNSへの「映える」投稿でランクを上げようと必死に生活している。
豊かな暮らしを夢見るごく普通のOL、レイシーもその1人。努力家の彼女は今日も同僚達が喜ぶ一言を添えて挨拶し、不味いクッキーとコーヒーを「最高!」と称してSNSに写真をupする。
弟と2人で暮らすレイシーだが、住んでいるアパートの契約が切れてしまうため、新しい物件を探すことに。見学した物件の1つが気に入るも、そこへ住むには少なくとも評価4.5以上が必要だという。
早速専門家の元へ相談に向かうレイシー。カウンセラーはレイシーの評価の動きを分析し、評価4.5への到達は可能だと告げる。さらに「早くランクを上げるためには、ランクの高い人間にいい評価をもらえばいい」とアドバイスをされる。
翌日から評価の高い人々に五つ星を送りまくるレイシーだが、やりすぎて効果は裏目に。そんな中彼女は評価4.8の旧友、ナオミのことを思い出す。
一か八か、ナオミとの思い出の品をSNSに投稿するレイシー。するとすぐにナオミから五つ星が送られてきた。
その夜、レイシーの元にナオミから電話がかかってくる。思い出の品を見て昔のことを思い出したというナオミは、自身の結婚式でレイシーにスピーチを頼みたいと申し出る。
もちろんよ!と即答するレイシー。セレブのナオミは挙式にも高評価の人間を大勢呼んでおり、上手くいけばレイシーの評価は爆上げだ。
通話が終わるなり、会話を聞いていた弟が茶化しにやってくる。「昔ナオミにいじめられたり、彼氏を寝盗られたりしたのを忘れたのか?」と痛いところを突かれるが、有頂天のレイシーの耳には入らない。
物件の前払いも済ませ、いよいよナオミの挙式に向かおうとするレイシー。変わり果てていく姉の姿を心配した弟に口を出されると、レイシーは日頃の恨みを爆発され、「評価星三つのクズ」と弟を罵倒して出ていく。
低評価の災い
なんとか空港にたどり着いたレイシーだが、予定していた便はキャンセルになり、他の便に乗るには評価4.2以上が必要だと言われる。それなら私は大丈夫ね、と余裕のレイシーだったが、係員に見せられたレイシーの評価は4.1。家から空港に来るまでの間、弟やタクシーの運転手らに次々低評価をつけられ、4.1まで評価が下がってしまったのだ。
融通のきかない係員を、レイシーはつい罵倒してしまう。すると警備員を呼ばれ、一時的に評価から1ポイントを引かれる罰則が下され、空港を追い出されてしまった。
仕方なく車を借りることにするも、レイシーの今の評価で借りられるのは、格安のオンボロ車だけだった。更には途中でガス欠を起こし、ついに移動手段すらなくなってしまう。
キャリーバッグを転がしながら道端を歩くレイシーの隣に、大きなトラックが止まる。声をかけてきた女性の評価はなんと1.4。
あまりの評価の低さに戸惑うレイシーだが、他に手段もなく彼女の車に乗せてもらうことに。
彼女の名前はスーザンといい、向上心の高いレイシーを「昔の自分とそっくり」と言った。スーザンは昔4.6という高評価の持ち主で、愛する夫もいた。
しかし夫が病に侵され、更に僅かばかりに評価が足りなかったことを理由に治療が受けられず、亡くなってしまったことをきっかけに、彼女は評価を気にしなくなった。「言いたいことを言えるのはすごく気分がいい。あんたもやってみたら?」とスーザンは言うが、「私は失いたくない」とレイシーは言い張る。
別れ際、スーザンから「緊急用よ」と酒をもらうレイシー。なんとか別の車を見つけ、挙式の場所まではあと僅かの距離となった。
するとナオミから電話があり、「式場へはあと少しよ」と伝えるレイシーだが、そんな彼女にナオミは「来ないで」と冷たく言い放つ。大暴落したレイシーの評価に気づいたナオミは態度をころりと変え、「セレブから点数を稼ぎたかっただけでしょ」と彼女を貶した。
ナオミとの電話で騒ぎ、車を降ろされてしまったレイシー。しかしここまで来て引き返すわけにはいかない。
スーザンにもらった酒をぐいっと飲み干し、いかつい男からバイクを借りて式場へ向かう。途中、泥沼に転倒してしまい顔も体も真っ黒になるが、なおも彼女は諦めなかった。
クソッタレ
到着すると、式は盛り上がりの真っ只。警備の目を掻い潜り、レイシーはドロドロの姿のまま式場のマイクを奪う。
練習の通りスピーチをしようとするが、酒のせいか動揺のせいか、しどろもどろでスベりまくり、レイシーには式場の人々から大量の低評価の嵐が。
更にナオミの旦那を罵倒し、捕まえようと迫ってくる警備や新郎に向けてナイフを振り回し始めたことで、式場は大混乱に。レイシーはナオミに彼氏を寝盗られたことを大声で暴露し、最後に「愛してるわ ナオミ」と叫びながら警備に引きずられていくのだった。
その後、拘留所に入れられるレイシー。早々にくだらないドレスを脱ぎ捨てブラジャー姿になる彼女を、向かいに収容されている男性が見ていた。
「何見てんのよ」とつっかかるレイシーに、「そのブラジャー最悪だ」と便乗してくる男性。2人はお互いの悪口を言い合うが、その表情は笑顔で、とても活き活きとしていた。
最後は2人で思い切り「クソッタレー!」と叫び、この物語は終了する。
感想
シーズン3の1話目であるこの「ランク社会」、個人的にものすごく好きな話です。なんといっても自分のランクを上げるために必死に「映える」写真をUPしまくるという登場人物たちの姿、私の嫌いな今のインスタ文化そのものじゃないか。
男性が見たら「くだらない」で終わってしまうかもしれないが、映えのためならなんでもするインスタラーもどきに嫌気がさしている女性には、ものすごく刺さる作品なのではなかろうか。
この世界の人々は顔の隣に名前と評価が表情される仕組みで、さらに手元のリモコン操作で、相手のSNSの投稿なども見られる。「人生の軌跡のすべて」や「ホワイトクリスマス」に出てきたZアイと同じような機能かな?
ランク=人生のこの世界では、高ランクの人だけ優待を受けられるのが当たり前で、逆にランクの低い人間は例え勤めている会社であっても中にいれてもらえなかったりする。そのため人々は感じのよい挨拶や、相手のSNSを即座にチェックしてその話題に触れる等々、相手に好印象を持たれるための微々たる努力を惜しまない。
一見イジメがなく良い社会なのでは····と思うが、この世界の人々は低評価の人間にはとことん冷たい。「自分の評価が下がるから」と話してもくれないし、挙句道を歩いているだけでも低評価を送られる始末だ。
こんな世界私ならば絶対に嫌だけど、なんでも評価中心のこのネット社会、いつかはこんな風になってしまう日も来るのではないかとも思う。もしかしたら目に見えないランクの世界で生きている人も既にいるのかもしれない。
インスタなんかで私生活は滅茶滅茶なのに、きらびやかな写真にやたらとハートがたくさんついたポジティブすぎるコメントを添えて投稿する知人がやたらといる。なぜそんなことをするのか意図がわからなかったが、「質の高い人間に見せたい」が目的だと思うと、非常にしっくりきた。
この作品のラストシーンは、このシーズン3までで1番明るく希望のあるラストだった。ブラックミラー特有の、ずーんとした後味の悪さがない。
最後レイシーと罵倒し合っていた男性、ピエロのような格好のレイシーに対し、スーツ姿でかなり紳士的なルックスだったので、彼もレイシー同様、高評価に囚われた世界に疲れた人なのかもしれない。
そしてこの作品を見て何より幸せだと思えるのは、今この瞬間、思い切りクソッタレ!と言えること。クソッタレ!って最高の言葉です。
クソッタレ!